映画感想「テロ、ライブ」

2013年に韓国で制作されたサスペンス映画。ハ・ジョンウ主演、キム・ビョンウ監督作品。なんか面白いと評判は聞いていた作品。Amazon Prime Videoで視聴。

主人公のユン・ヨンファは朝の生放送ラジオ番組で、ニュースキャスターとして視聴者からの生電話を受けていた。いつものように討論テーマとずれた内容を話す視聴者を適当にいなしていたのだが、その日電話をかけてきたパク・ソギュという人物は「俺に話をさせろ」ととにかくしつこい。CM中にも通話は続き、相手は「俺の話を聞かなければ、橋を爆破する」と言い出す。
どうせハッタリだと思ったユンはイライラも手伝って「やってみろよ、クソ野郎!」と挑発。相手の電話は切れる。ユンがCM明けの放送に戻った直後、彼のいる放送局ビルの真正面にある麻浦大橋が轟音を響かせ爆発、その一部が消滅してしまう。

轟音の後、ユンがブースの外を覗くととんでもない光景が。
近場からの画を一切見せないのが、いっそうリアルさを演出していて良い。

慌てて警察に電話しようとしたユンだが、ふと思いとどまる。さっき電話をかけてきた犯人と思しき男の音声は録音しており、これはいわばこの番組だけの特ダネである。そして相手はおそらくまた電話をかけてくるだろう。
ユンは放送局長に録音を聞かせ「犯人とさっき電話で話した。俺をテレビのキャスターに戻し、犯人とのやり取りを生中継させろ」と直談判。実はユンはかつてテレビの花形キャスターだったのだが、左遷させられてラジオをやっていたのだ。主人公の願いは聞き入れられ、ラジオブースで犯人との交渉がそのままテレビ生中継されることになるのだが……と、序盤はこんな感じ。

本作はほとんど放送局の中で行われる密室劇となっており、上映時間も1時間37分と短め。しかし、内容はかなりギュッと詰まっており、特に映画が始まってから本題(橋が爆発する)に入るまでが恐ろしく早い。気だるそうに電話を受ける主人公のユンの表情、番組スタッフに対する高圧的な態度、元妻への電話、テレビ中継が決まってから大急ぎで身だしなみを整えるなど、説明的にならずともユンの性格や置かれている状況、望みなどほとんどのことがわかるようになっている。また、作品の大半が密室劇にならざるを得ない理由付けもしっかりしており、納得感もある。キャストも少なめで絵面の変化もあまりないながら、爆破シーンなどお金をかけるところにはしっかりかけているので、安っぽくは見えない。とにかく見せ方が巧いと感じた。

本作は、他人を利用する者と、他人に利用される者の物語だといえる。ユンの上司である局長、対テロセンター主任などは利用する側の人間であり、対して犯人の動機は利用され、使い捨てになった人間の怨嗟の叫びである。また、ユンは最初こそテロ予告を利用して成り上がろうとするが、生中継での交渉役として立ち回っていくうちにどんどん他者の思惑に利用される側へと立場が変化していく。一時的にもテレビという晴れの舞台に返り咲いたはずが、気がつけば出ることのできない牢獄へと変わっているという逆転もまた面白い。

ブース内に唯一人残されるユン。
はじめは手柄を独り占めするはずだったのだが、こんなはずでは……。

これだけではただ野心家の自業自得とも取れるが、物語が進むにしたがってユンの過去が明かされていくと、いけ好かないやつだった主人公に対する見方も多少変わってくるなど、細やかな印象の与え方なども巧いと思う。ラストはそうなるかーとも思ったが、説教臭さを排しつつも現実を突きつけてくるのはエンターテインメントとして正解だなと思った。

というわけで、スリリングで濃密な密室サスペンス作品。アイデアだけでなく演出も優れており、終始部屋からほぼ出ないという点を貫きながらの終盤の展開など、緊張感はそのままに最初から最後まで一気に駆け抜けていき、100分足らずでここまで面白いものを作れるのか、と驚愕させられた。良作です。

画像:© 2013 Film Prodution CINE2000 CO.,Ltd

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