映画感想「ミラベルと魔法だらけの家」

2021年、ディズニー製作のフルCGアニメーション映画。「モアナと伝説の海」以来のミュージカル・アニメ作品で、「モアナ~」でも楽曲を担当した劇作家リン・マニュエル・ミランダが担当。原題は「Encanto」と相変わらず潔い。ディズニープラスで視聴。

コロンビアのどこかにある町、エンカント。話はミラベルの祖母アブエラ・マドリガルが、幼いミラベルに昔話を聞かせるところから始まる。アブエラが若かったころ、彼女は夫ペドロや他の人々とともに生まれたばかりの三つ子を抱え新しい住処を求めて故郷を離れたが、道中でペドロは暴動に巻き込まれ命を失ってしまう。最愛の人を失い悲しむアブエラ。そのとき、彼女が持っていたろうそくに奇跡が起こり、周囲の山々を隆起させその中心に安全な町「エンカント」と、魔法の家「カシータ」を作り出した。アブエラはカシータの住人になり、彼女の3つ子は5歳のときに家のドアノブに触れそれぞれが異なる「ギフト」という魔法を授かる。以来マドリガル家は魔法使い一族となり、町の人々を助け尊敬されてきたのだ。祖母から話を聞いた幼いミラベルは、マドリガル家に相応しい人間になろうと新しいギフトを授かる儀式に臨む。
それから月日が経ち、ミラベルは明るく皆のために頑張る少女に成長したが、一方でそれはある負い目の裏返しでもあった。ギフトの儀式でドアノブに触れたミラベルだが、彼女は何の魔法も授かることができなかったのだ。以来ミラベルは家族の中で、魔法の力を持つ人達とは対等でない扱いを受けていた。そんな中、魔法の家カシータに異変が起こりつつあった……というのが序盤の流れ。

魔法のろうそくを手にするアブエラと幼き日のミラベル。
マドリガル家にとって誇りになれるよう頑張りなさいと訓示を受ける。

面白かった。ディズニー・アニメーションの良いところ満載で、とにかくキャラクターがよく動くし、今作はミュージカルシーンがふんだんに挿入されている。ディズニーらしい目まぐるしい演出は見ているだけで楽しく、リン・マニュエル・ミランダの音楽の素晴らしさといい、シンプルに音楽とアニメーションだけでも惹きつける魅力がある。町の子供たちに「ミラベルの魔法ってなんなの?」と聞かれ、代わりに主要キャラとなる大家族マドリガル家を(音楽に乗せて)楽しそうに紹介することで誤魔化そうとする辺りなんかは構成としてとてもよくできていると思った。

本作は「持たざる者」ミラベルこそ主役だが、彼女だけでなく他の家族の「魔法の力を持ったがゆえの苦悩」にも触れられている。家族が主役となるミュージカルシーンもあり、各々が抱える本当の感情の発露としても機能しており、「またおまえの歌か」とはならない。物語の主題となるものがなかなか深刻なわりに、ミラベルの持ち前の明るさや画面の色彩、他のキャラクターの陽気さで鬱々しないようになっているなど、見せ方の上手さも光る。それでいて不憫なところは思い切り不憫で、各キャラクターの想いがよく表現されこちらの感情を揺さぶってくる。直接的な問題と、真に隠された問題の暗喩が「家に亀裂が入る」という同じ一つの象徴に集約されているのもいい。これくらい明快なら、小さな子供ですらその意図に気づけるのではないだろうか。
以前観た「ソウルフル・ワールド」が個人の物語だったのに対して、本作は誰の気持ちも理解し共感できるがそれでも問題は起こってしまうという難しさと、それがどう解消され癒やされていく過程が描かれる。パーソナルな物語から、家族という共同体に視点が広がりを見せているのだ。

マドリガル家を紹介するミラベル。
ミラベルも彼ら彼女らと同じようにみんなの役に立ちたいと頑張っている。

他の家族と違い魔法を授けられなかったミラベルだが、物語の最後でそれに理由があることが明かされる。ここまで見てふと、能力そのものが個性ではなくそれを含めて何を成すのかというのがその人を語る上で重要と言いたいのではと思った。この物語で描かれたことは、クライマックスを見ると、ある種の「継承」の儀式のようにも見える。関係を長続きさせるには不和を生まないことも大事だが、こういう揺さぶりや危機をともに乗り越えることも絆を強める上で必要なのかもしれない。

というわけで、持たざる者の物語に見せかけた、家族再生の物語。子供向けの笑いや演出でありながら、テーマそのものはがっつり大人の問題……という手法はファミリー向け作品のお手本といって差し支えないだろう。持たざる者視点だと「なんだよー」と思うかもしれないが、3Dアニメーションというこのスタイルでこれだけのことを訴えかけてくるあたり流石。

画像:© 2021 Disney Enterprises,Inc.