映画感想「JUNK HEAD」
2021年公開のストップモーション・アニメ映画。堀貴秀監督が7年の歳月をかけ、制作に必要なほぼ一人で制作したという触れ込みのSFファンタジー作品。Amazon Prime Videoで視聴。
舞台となる地下世界をバックに、ざっくりとしたテロップが流れる。この世界の人間は遺伝子操作によって死を忘れるほどの長寿を獲得したのだが、その結果生殖能力を失ってしまったとのこと。そんな折、未知のウィルスが蔓延し人口は激減。滅亡の危機に瀕した人間の頼みの綱は、かつて自分たちが生み出したマリガンという人工生命体。マリガンたちは地下開発の労働力としてこき使われていたものの人間に反旗を翻し、以来交流は絶たれ1600年の月日が経過していた。人間は彼らの生態調査データから生存への手段を見つけ出すために、地下調査員を派遣し始める。主人公のパートンも調査員になった一人でポッドに入り地下へ降下するのだが、途中で事故に遭いポッドは爆発。パートンの体は爆散し、頭部だけになってしまうのだった……というのが冒頭の流れ。
やはり最大の特徴は、監督ほぼ一人の手によって手がけられたということに尽きる。実際には30分版→追加撮影という流れがあり、後者は現場スタッフとして何人かの人の手を借りたそうだが、映画を一本作るにしてはごく少数であることに変わりはない。しかも数分の短編映画ならまだしも、本作は1時間40分の作品である。
インタビューなどによると、監督はストップモーションアニメ映画を作るのではなく、「(ハリウッドの)実写映画を目指す、そのための手法としてストップモーションを使う」というスタンスで臨んだらしい。目標を決め、それを実現するために何をすべきかという当たり前だが難しい手順をしっかり踏んでいることにも手堅さを感じる。
そして監督一人の世界観がそのまま作品に反映されており、内容はかなり濃い。前述のあらすじで主人公はいきなりバラバラになってしまうのだが、この世界の人間というのがまた特殊で頭から下の部位がなく、肉体や表面の顔を自由に付け替えできるというかなりハードコアな設定なのだ。
この後パートンの頭はガラクタ集めをしていたマリガンたちに拾われる。そこで仮のボディを与えられるのだが、記憶を失っており……という形で、物語が進行していく。パートンはマリガンの生態はまったくわからない上に記憶もないし、マリガン側も人間がどういうものかわからず、長い年月が経った結果自分たちを作った「神」だいうことだけが伝わっているのみ。
序盤は観ている側としても物語がどう転がっていくのかわからず、起こっていることについていくので精一杯になる。ただストップモーション独特の手触り感はそれ自体観ていられるので、結果として大きな武器になっていると思った。登場キャラクターもハードな世界観ながらすっとぼけた人物が多く、全体を通してコミカルでワチャワチャしている。またそうしたドタバタの合間にグロテスクなクリーチャーやしっかりとした背景美術など、見応えがある部分やシーンも多い。特に無機質な地下世界やゴミが散乱したジャンクなゴチャゴチャ感への拘りがすごいと思った。また、すぐに慣れるがグロテスク描写はなかなか強烈。
最初は意思疎通できなかった主人公が、破壊と修復を繰り返しながら地下世界のあちこちを彷徨い、様々なマリガンたち(グロテスクなものも含む)と出会っていく。序盤の「考えるな感じろ」といわんばかりの説明のなさが、意思疎通できたときに明かされていくことで初めて「あれはそういうことだったのか」という納得感へと繋がっていくあたりから、俄然面白くなってくる。
決して流れとしてすんなり入ってくるわけではないのだが、その飲み込めなさがまた作品世界のヴィジュアルとまたマッチしているともいえる。ちなみに音声は独自言語なので、基本的に字幕を追っていく形になる。
というわけで、ハードな世界観と一人の人間の熱意に触れられる作品。観ている途中でときどき「これほぼ一人で作ったんだよなあ……」という事実を思いかえし、ため息が出た。昔に比べると、現代はネットの発達や情報に価値が生まれ、誰もが専門的な知識に簡単に触れることができるようになった。とはいえその道を走り切る熱意があるかはまた別の話。ただ間口は絶対に広がっており、今後こういった作品がもっと出てくるのではないか思う。とくにエンドクレジットはいろいろ圧巻。畑は違うが自分も頑張らないと、と思わされた。
画像:© 2021 MAGNET/YAMIKEN
Amazon Video
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