映画感想「ドリームキャッチャー」

2003年のアメリカ映画。

スティーブン・キング原作小説の映画化。
監督はローレンス・カスダン。スター・ウォーズシリーズ屈指の名作「帝国の逆襲」の脚本家として有名な人。
主演トーマス・ジェーン。モーガン・フリーマンも出演している。

この映画、はじめて見た時には面白いとかつまらないとかではなく、怒りの感情が沸いたのをよく憶えている。

いわゆるダメな作品や自分に合わない作品を観てつまんないなーと思うことは当然あるんだけど、あとで思い直すと頭にくるというのは自分の中ではなかなかなかったし、後述する理由もあって数あるキング原作映画の中でわりと好きな作品になった。ちなみにマイベスト・キング映画は「ミスト」。そっちの話もいずれ。

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© 2003 Warner Bros.

うまくいかない日々を過ごす四人の男たち。彼らはみな幼馴染で、毎年クリスマスごろに四人で集まり、人里離れた山奥のロッジで酒を飲み、動物狩りをして過ごすという付き合いを中年になった今でも続けていた。そして、四人には秘密もあった。彼らは幼い頃、不良にいじめられていた少年ダディッツを助け、関わりを持つ。その際に彼から不思議な力を授かっているのだ。
この、男だけの集まりはそうした絆が生んだ恒例行事――ところが、今年は何かが違った。一人は、集まる何ヶ月か前からそれまで忘れていたダディッツの幻覚を見るようになっていた……。

少年時代の絆、友情、田舎、いじめられっこ、超能力と、これでもかというくらいキング・エッセンスが詰め込まれた序盤は、牧歌的な雰囲気の中に忍び寄る恐怖、という意味でも非常に自己模倣的。黒青調のビジュアルイメージからして、ここに多少のオカルト要素が入ってくる余地はまあ、充分に許容できると思う。なにせ「シャイニング」や「IT」「ペット・セマタリー」のキングである。

そして、雪が降り積もる森のロッジで「さあくつろごうか」といったところから、徐々に不穏な、ホラー的な意味での予兆が始まる。ここまではお約束。さあ、何が起こるんだろう。
そう思っていると、映画はある時点でその期待ごと奈落に突き落とす展開へと転がっていくのである。多少のオカルトどころではなかった。やりたい放題である。

なにが起こるのかを書いてしまうと楽しみを削いでしまうので、知らない方はぜひなにも調べず観てもらいたいのだが、一言でいってしまうと「映画のジャンル」が変わる。自分が初めて観たときにはまったく身構えていなかったのでひどい裏切りにあった気分だったけど、観た後もなんか忘れられなかったのである。

とはいえ、この展開も実際のところスティーブン・キングの作家性的には意外でもなんでもなかったりする。あれから何年も経ちキング・リテラシーが高まった今では「うん、キングですね」と言える。途中で出てくるあれの初登場ビジュアルがなにかの冗談かと思うになっているのはやっぱりびっくりするけど。
この映画をきっかけに自分は「ジャンルがシフトする(ように見せる)映画」というものがあるんだーと意識するようになった。

おそらくあらすじだけどこかで見ているとこの感想にはならないと思うが、これに限らず「どんでん返し」「超展開」「予想外」といった煽りの映画は、そう聞いた時点で受け手が身構えてしまうのですすめ方が難しい。
ただ「ドリームキャッチャー」は出会い方次第で忘れられない一作になる人もいると思う(少なくともここに一人)。ダディッツの「アーイ・ダディッツ!」や、四人の合言葉的な「SSDD(Same Shit Different Day)」といったワードもなかなか忘れがたい。

また、名優モーガン・フリーマンが悪役として登場するのも見どころ。本人は正義を果たそうとしているつもりだがネジがぶっ飛んでいるという、なかなか見られない役どころなので、そういう意味でもおすすめしたい珍作。