映画感想「怒りの荒野」
1967年のマカロニ・ウエスタン。トニーノ・ヴァレリ監督作品。
冒頭からリズ・オルトラーニの、ブラスの効いたテンション高いテーマソングが流れる。
主演のジュリアーノ・ジェンマ、渋いリー・ヴァン・クリーフの顔が次々交差するオープニング。
クリフトンという町が舞台。娼婦の子として生まれたスコット(ジュリアーノ・ジェンマ)は、すぐに母親も亡くし両親のいないまま育った青年。町のみんなはそういった素性のスコットをバカにし、便所掃除の仕事など、汚くて賃金の安い仕事をやらせている。汚物扱いされ、みんなの娯楽の場である酒場に入ることは許されない、娘に色目を使ったとわかれば髪を掴まれ二度と近づくなと脅される。スコットに優しいのは、浮浪者で同じような扱いを受けているビルと、馬小屋で働く老人のマーフ。
特にマーフは、彼に拳銃の扱い方と早撃ちを教えた、ある意味父親でもある。しかし拳銃は持たせない。
元保安官だったマーフは、いたずらに銃に手を出して死んだ人間を数多く見ているからだ。だが、スコットは自分の貯めたお金で拳銃を買うことを目標に、屈辱に耐えながら日々を生きている。拳銃を持てば、自分もいっぱしの男として見られるだろう、と考えているのである。
そんなときに、町にフランク・タルビー(リー・ヴァン・クリーフ)というガンマンがやってくる。流れ者のタルビーは、たまたま目が合ったスコットに声をかける。ここのやり取りがもう痺れる。
名前と姓を聞かれたスコットは、姓はなく、身内は母だけでもう死んでいることを告げる。今度はタルビーから母親の名を尋ねられる。メアリーですとスコットが答える。するとタルビーは、今日からスコット・メアリーと名乗れ、という。「皆から笑われますよ」とスコットは笑うが、タルビーは笑わず「そうか? 笑うとは限らん」と鋭い眼差しで答えるのだ。
子に姓を与える、つまりその子の親になる、という暗示的なシーンである。
タルビーは酒場にスコットを招き入れる。
しかし本来なら彼は酒場に入れない身。案の定店主から出て行けと言われるが、タルビーが「彼は俺の客だ」と譲らない。そのうちに酒場にいた町の若者が、俺が追い出してやると息巻く。タルビーはその若者を挑発し、不用意に銃を抜かせてからいきなり撃ち殺す。
先に銃を抜いたのが若者であったため、タルビーは正当防衛を認められ無罪放免になるが、スコットは「お前のせいで人が死んだ」と理不尽なリンチを受ける。
嫌気がさしたスコットは、町を出たタルビーを追う。
町の連中と違って、ちゃんとスコットを人として扱ったからだ。それに卑屈に育った彼にはない、度胸と強かさを持っているし、何より手練のガンマンである。教えを請うのにうってつけの人物というわけだ。
ガンマンとして弟子入りを受け入れられたスコットだが、タルビーから「決して人にものを頼むな」「決して人を信用するな」といった厳しい「ガンマン十ヶ条」を叩き込まれる。
このへんの師弟ものとしてのすべり出しはわくわくする。まずガンマン十ヶ条という格言化した掟がかっこいい。一つ一つを実戦で見せていく、能書きではない生き様の掟である。スコットはこのガンマン十ヶ条を間近で見、またその身を持って経験し、徐々に成長していく。最初はぼろぼろの上着に殴られ青タン面だった彼も、白シャツ黒ベストに着替えた途端、色男ジェンマの本領発揮で主役感マシマシになる。
タルビーはスパルタだがスコットにしっかりとものを教え、スコットにしてみても、自分が変わるきっかけを与え、さらにうまくやれば褒めてくれるまさに父親のような存在だ。ベテランと新米というバディものとして見ても楽しい。
だが、最初に若者を容赦なく撃ち殺したように、タルビーは悪い父親なのである。
クリフトンに戻った二人は、殺された若者の仲間から襲撃を受けるが、スコットの活躍もあって返り討ちにする。スコットはそれまで自分をいじめてきた人間たちを怒鳴りつけ、俺はもう今までの俺じゃない、二度となめた態度を取るな、と凄む。
その変わりように「彼に何をした? まるで狂犬だ」と、人々はタルビーに尋ねる。このあとのタルビーの返しは皮肉が効いていてとてもよい。
タルビーの相棒として、スコットの銃の腕前は町で有名になっていく。もう誰にも馬鹿にはされない。
だがここからタルビーは徐々に本性を表していき、スコットはタルビーとマーフという二人の父親の間で揺れる……というお約束の展開になるのだが、プロットが基本に忠実なので退屈しなかった。
「師弟もの」としての伝承と成長を描き、その集大成として訪れる師匠超えがそのまま父殺しと重なっているからだろう。師父という言葉があるように、二つは親和性が高いのだ。
もう取り繕いもしないが、ほとんど大筋をばらしてしまっている。大筋がわかっていても、父殺しの話として傑作だからだ。Blu-rayパッケージの裏に書かれた「最初は師弟、最後は仇敵。」というキャッチコピーもとてもいい仕事だと思う。
特に最後の戦いへと続くくだりは胸が熱くなるのだが、それ以外にも早撃ちの技術論や銃選び、改造についての話なんかが出てきて、(実のところ理に適っているかは別にして)決着に説得力をもたせている。特にあの銃の構え方はすごくかっこいい。
マーフの早撃ちとタルビーのガンマン十ヶ条、二つを学んだ男が戦いを通して最後に手にするものも、またなるほど、と思わせる。
ストーリーの巧さについて、最後にもう少し触れておきたい。町の人間から人以下の扱いを受けて育ったスコットは、町のために何かしてやろうなんて考えは毛頭ない。帰属意識のなさはマカロニウエスタン主人公の素養として必須といっていいように思うが、物語の中でその部分を描き、主人公の原動力としている。
こういうところも相まって、スコットに感情移入してしまうのだろうなあと思った。おすすめです。
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