映画感想「ソー:ラブ&サンダー」

2022年公開のマーベル・ヒーロー映画で、「マイティ・ソー」シリーズ4作目。ソー役はおなじみクリス・ヘムズワース。そしてソーの元カノであるジェーン・フォスター博士をナタリー・ポートマン、今作のヴィランであるゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーをクリスチャン・ベールが演じる。監督は前作「マイティ・ソー:バトルロイヤル」に続きタイカ・ワイティティ。ディズニープラスにて視聴。

あらすじ

ある砂漠で今にも力尽きそうな父娘がいた。「自分はどうなってもいい。娘だけはどうか」と神に祈りを捧げる男。だがその願いも虚しく娘は息絶えてしまう。悲しみにくれる男の前に、彼が信奉するラプー神の泉が姿を現す。そこではラプーが「神殺しの剣」ネクロソードを持つ敵を倒した勝利の宴を催していた。自身を信奉する民の苦しみなど毛ほどにも思わぬラプー神に男は怒り、その場にあったネクロソードで神を刺し殺す。この瞬間から剣に魅入られた男ゴアは「ゴッド・ブッチャー」となり、宇宙にいるすべての神を殺すことを誓うのだった。
その頃「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の面々とともに宇宙を旅していたソーは、同じアスガルド人の仲間シフがゴッド・ブッチャーに襲撃されたことを知る。彼女を助けるためにGotGたちと別れ、友人のコーグとともに地球にあるニュー・アスガルドへと舞い戻ったソー。ゴッド・ブッチャーの放った怪物を退ける戦いの最中、彼はかつての自分の愛武器ムジョルニアで戦う人物を見て動揺する。その女性こそかつての恋人、ジェーン・フォスターだった……というのが話の導入。

勝手知ったる新たな故郷に戻ったら自分と同じ格好の戦士がおり、
さらにそれが別れた恋人だった、という情報の渋滞。そりゃあ気持ちの整理がつかない。

感想

自分はソーが主役のシリーズ1作目と2作目は未見で、視聴したのは3作目となる「バトルロイヤル」から(話が逸れるけどこれは原題の「ソー:ラグナロク」の方が絶対カッコいいと思う)。「マイティ・ソー」は北欧神話の雷神トールをモデルにしており、「バトルロイヤル」の物語も炎の巨人スルトによってすべての国が焼き尽くされる、北欧神話における最終戦争「ラグナロク」になぞらえている。
最終戦争と聞くと救いようのない凄惨な内容に思えるかもしれないが、意外なことに実際はかなりギャグシーンが多く明るくノリの良い内容。元々神話をモデルにしたファンタジー・アクション映画のような位置づけなのも辛気臭さが薄い一因かもしれないが、それ以上にコメディアン出身でもある監督のタイカ・ワイティティの作風が色濃く出た作品となっている。また、ソーの神(に等しいアスガルド人)という人ならざる性質や、ヴァイキング的な豪放磊落さが笑いと親和性が高いようにも思える。
そんなタイカ・ワイティティが続投した今作「ラブ&サンダー」だが、もちろん前作の路線は継続。「傲慢な神に見捨てられた男が怒りと憎しみのままに宇宙中の全ての神を殺すことを誓う」という、真面目に向き合えばいくらでも深刻にできる題材なのだが、実際物語の中心となるのはソーとジェーンの恋愛コメディ。ジェーンに複雑な感情を抱くソーのお茶目な部分や仲間たちとのゆるい絡みと、銀河中の神を脅かさんと目論むゴッド・ブッチャーとの戦いが同時に進行していくのだ。

内容を観ていると「ずいぶんと好き勝手やっている」ように見えるのだけど、方向性としては結構考えられているように思った。本作の悪役ゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーは、一貫してソー側のおふざけには乗らず、復讐と憎しみに駆られた男として愚直にヴィランの仕事をこなしている。彼の生い立ちは真面目に捉えるとかなり悲惨で、人間の立場としては非常に同情の余地があると言わざるをえない。さらに物語中には神の堕落した姿を強調する場面もあり、ソーですらそこに幻滅することで、敵に正当性を与えている。
それでもコメディを中心に据えるのは、悪側が抱える悲痛さを無視して取り合わないのではなく、それを受け止め呑み込んだうえで明るく笑い飛ばすような、そういう意図があるように感じた。確かにそちらの方が、相手に寄り添い同情するよりもソーの性質らしい気もする。このゴッド・ブッチャーの企みとソー&ジェーンの恋愛の結末は最終的に交差し影響を及ぼすのだが、そういうところも巧くやっているように思った。

あと、今作ではやたらと「ガンズ・アンド・ローゼス」が作中で流れ、ノリの良さの演出に一役以上買っている。特に冒頭で名曲「Welcome to the Jungle」をバックにソーが大暴れするシーンがあるのだが、その格好が80’s~90’sのHR/HMバンドマンを思わせる袖なし革ジャン&デニムという、今の感覚で見ると微妙にダサファッションなのもニヤリとさせる。前作で「レッド・ツェッペリン」の名曲「Immigrant Song」が使われたように、本作でもここぞというところで景気の良い音楽を合わせてノリと勢いで押し切ってくるので、それも見所の一つだと思う。

戦場でストームブレイカーを掲げ、稲妻を受けるソー。
上にタイトルロゴとかつけたらジャケっぽくなりそう。

まとめ

というわけで、神が主役というスケールの大きさと、シリアスとギャグを内包した明るくノリの良いヒーロー作品。暗さ、深刻さを意図的に中和しているせいかゴッド・ブッチャーのヴィランとしての魅力がいまいち感じられず、せっかくクリスチャン・ベールなのに役不足に感じてしまったのは残念。それでも彼の拠点に到達したときの映像表現は面白かったし、終わり方も納得。GotGとはまた違った笑いとゆるさのある作品。

画像:© 2022 Marvel