アニメ感想「伊藤潤二『マニアック』」
2023年、NETFLIXで配信されたホラー・アニメーション。2018年放送の「伊藤潤二『コレクション』」に続き、ホラー漫画家伊藤潤二の短編20作品が新たにアニメーション化されている。朝日ソノラマ(朝日新聞社の子会社、現在は解散)から発表された作品から選出されているため、「うずまき」や「阿彌陀羅断層の怪」といった小学館で発表された作品は含まれていない。
あらすじ:「首吊り気球」
和子は部屋で一人震えていた。外からは二階の窓の戸を叩く音、そして「和子、早く窓を開けて出てきなさい」と促す声。しかし、和子はもし言葉のとおりにしたら死が待っていると確信していた……。
話は和子のクラスメイトで親友であり、アイドルタレントの藤野輝美が首吊り自殺をしたところまで遡る。世間が輝美の死を惜しむ一方、彼女の幽霊を見たという奇妙な噂もまた広まっていた。目撃者の話では、公園の木の上に彼女の顔が大きく浮かび上がっていたというのだ。その様子を撮った写真が公開されても和子は信じなかったが、輝美と交際していた白石は「あれは本物だ。よく僕の家の庭先に浮かぶんだよ」と語る。今度現れたら知らせると言った後、約束通り和子のところへ白石から「輝美が現れた」と連絡があった。輝美が出たという場所へ和子が向かうと写真の通り彼女の巨大な顔が漂っており、そのそばでは白石が木に登り、彼女に声を必死で呼びかけている。白石の前には首吊りのロープが垂れ下がっており、和子が止める間もなく彼は首を吊ってしまった。次の瞬間、そのロープがゆっくりと移動すると、木の陰から輝美と同じ、巨大な白石の顔が現れたのだった……。
感想
この「マニアック」がNETFLIXで配信されると知り久々にネトフリ再加入したのだが、全体を通しての感想としては良いところもあり惜しいところもある、そんなアニメ。
良いところでいうと、特にあらすじでも書いた「首吊り気球」は力が入っており作品全体としての出来もかなり良いと感じた。「自分の顔をした気球が自分の首にロープをかけて殺そうと飛来してくる」というシュールすぎる内容は、かつてTV番組「マツコ有吉の怒り新党」でも特集されたほどで、間違いなく代表作のひとつ。内容は概ね漫画原作通りなのだが、空に無数の人の顔をした気球が浮かんでいるシーンなどもCGではあるが再現されているし、原作の一コマで「白石くんの体はマリオネットのように躍った」というモノローグが書かれたシーンでは、気球が動くたびに吊るされた白石くんの死体がびょんびょん揺れる様子がしっかりと表現されている力の入りよう。
他にも個人的に好きな作品「漂着物」のラストでは、原作にはなかった「あれ」が泳ぎ回るシーンが追加されていたり、「屋根裏の長い髪」でも結末をより直接的に描いている。こういう原作にはないちょっとした描写はとてもよかったと思う。
あとは、声がついたことでよりお話の魅力が引き立つものがあったのもよかった。「耳擦りする女」「蔵書幻影」などは雰囲気がよりプラスになったと思うし、「いじめっ娘」はいじめがよりえげつないものになった気がする。伊藤潤二というと奇抜な発想や緻密で繊細な画風が注目されがちだが、ホラーとしての話運びも優れたものが多いのだ。とくに「墓標の町」なんかは独特のいや~な感じが出ていてよかった。
ここからは惜しい点の言及になるが、やはり元々緻密な描き込みが魅力の原作漫画と比べるとやはりどうしても微妙というか薄味に感じてしまう点。ただこれはアニメーションとしての絵柄になっているためであり、そのおかげで初期の作品の絵柄もそのままでなくアニメとして統一されているので、必ずしも悪いことばかりでもない。人物はもちろん、「黴」なんかは今回初めて「あー、ギーガーっぽくしたかったのかな」と思ったし。
あとは大半の話において原作にあった登場人物のモノローグをカットしており、キャラクターの行動理由みたいなものがあまり説明されていない気がした。さらに1話2部構成のものになるとシーンの削減なども起こるので、なおのこと話がよくわからなくなっている。「こんなシュールな話じゃなかったと思うんだが……」と思って原作を読み直すとしっかり理由なり重要なシーンなりが書いてあるので、そこはがっかり。1話まるまる1エピソードの作品はあまりそうなってはいないので、話数を絞ってでもアニメとして見られるものにしたほうが良かったのではと思った。個人的に最終エピソード「双一の愛玩動物」で削られたシーンの中には「これに声がついて動いたら絶対面白いだろう」というシーンもあったので、そこが一番残念だった。
まとめ
というわけで、かなりファン寄りのめんどくさい感想になってしまったが、「コレクション」同様に伊藤潤二作品を知るには良い機会の短編集。ぜひ原作の描き込みもみて欲しいし、まだまだ面白い作品があるので今後もアニメーション化はされていって欲しい。
画像:© ジェイアイ/朝日新聞社版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
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