映画感想「ミッション・ワイルド」
2014年のアメリカ・フランス合作の西部劇。原作はグレンドン・スウォーサウトの小説「The Homesman」。精神病になった女性3人を数百キロ離れた教会へ送り届ける「ホームズマン」を引き受けた女性の物語。監督、脚本、主演はトミー・リー・ジョーンズ。ホームズマンの役目を引き受けた主人公の女性カディをヒラリー・スワンクが演じ、ジョーンズは彼女が任務の途中で出会う小悪党ブリッグスを演じる。Amazon Prime Videoにて視聴。
ストーリー
19世紀アメリカのネブラスカ準州。牧場を一人で切り盛りする独身女性メアリー・ビー・カディは、よくしていた別の牧場主ボブに結婚を迫るが「その気はない」と拒絶される。その頃、カディの牧場近くの集落では精神を病んだ女性たちを離れた町の教会へ送り届ける「ホームズマン」を誰がやるかで揉めていた。女性たちは全員既婚者。その夫の一人が役目の選定を半ば強引に辞退した結果、義憤に駆られたカディがその役目を引き受けることになる。
準備をする最中、彼女は通りかかった木に吊るされた男ブリッグスを発見した。彼は嫁探しにでかけたボブの家を不法占拠した罪で死刑になるところだったのだ。命乞いをするブリッグスを見捨てておけず、カディは自分の旅に同行し手伝うことを条件にブリッグスを助ける。こうして、カディとブリッグスは三人の精神病女性とともに長い旅に出る……というのが序盤。
感想
私が普段観るタイプの映画とは違う、久々の「いい映画」枠だった。西部劇ではあるのだが、善悪やガンマンと一般人といった図式が曖昧。派手なガンアクションや外連味ある描写もなく、「人が生きていく」ことを西部という過酷な舞台によって余計にむき出しにしたような、非常にリアリティある世界観となっている。物語はゆっくりと進み、カディとブリッグスが出会って旅に出るまでかなり時間があり、一人前に自立した女性が世間からどういう評価を受けるのか、精神病になった女たち(サワーズ、スヴェンセン、シオライン)が心の病を抱えた背景などを、過剰な味付けを抑えながらあくまで起こった事象をそのまま出していく。
よく「昔は人情があってよかった」という言葉が囁かれるのを聞いたことがあるかもしれないが、本作で描かれる「昔」(=西部)はとても古き良きとは言い難い。自分勝手にホームズマン選定から逃げた男などをはじめ、人々の多くは自分の生活に手一杯であり、思いやったような言葉ですら相手ではなく世間体や己のための見せかけとして描かれる。これはもう、本当に西部劇の話なのかというほど着眼点が現代的で生々しい。そんな世界でカディとブリッグスは人間らしく生きようともがく様が描かれる。
本作における主人公カディは牧場を一人で切り盛りし、教会の集まりなどにも積極的に参加する。誰も進んで助けようとしない女性らを放っておけないなど、一見自立した強い女性に見受けられるのだが実はそうではないことがだんだんわかってくる。ちょっと交流ができた男性に対し、彼女から結婚を迫って断られるというくだりは、恋愛(に至る前の段階)で失敗したことがある方にはかなり身につまされる場面ではなかろうか。彼女が精神病女たちを連れて行く決心をしたのは、集落から腫れ物扱いされている彼女らを男から拒絶される自身と重ねてのことなのかもしれないと思った。
カディが同情心や正義感から始めたこの旅は、彼女が想像していたものより遥かに過酷である。険しいどころの話ではなく、ブリッグスがいたからこそ切り抜けられた場面がいくつもあった。そうして中盤のある時点での出来事で、カディやブリッグスと精神病になった女たちに明確な違いなどなにもないのだということに気付かされるのだ。全員が正気と狂気の境目に立たされているというのがこの映画の西部であり、そこから汲み取れる現代味がまた観る者にじわじわと迫ってくる、ような気がする。
本作は予定調和があまりなく、大抵のことが皮肉めいた結果に終わってしまうという厳しい世界。しかし、だからこそ時折訪れる弱者の反抗は痛快だし、救いがないように思えて些細だが小さな希望もある。そうしたものを見失わず大切にすることが人間らしく生きるための防衛手段なのかも、となんとなく思った。
まとめ
というわけで、冒険活劇というよりは不条理な寓話のような西部劇。派手なアクションやわかりやすいドラマとはかけ離れた作品で、人間性を保とうとするほど傷ついていく中でそれに屈さず成し遂げた者を称えるという苦々しいが人間讃歌的な内容である。観終わってみると、この邦題はかなり的外れに感じた。
画像:©2014 The Homesman Limited Partnership
Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B078H1XYTY/
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