映画感想「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」
2023年公開の3DCGアニメーション映画。マーベルコミックスのヒーロー「スパイダーマン」関連作品で、色々なバリエーションのスパイダーマンたちが一同に集結する「スパイダーバース」を舞台にしている。本作の脚本にはアメコミ映画を多数手掛けたデイブ・キャラハムと、「くもりときどきミートボール」「LEGO ムービー」などの脚本家デュオであるフィル・ロードとクリス・ミラーが参加している。Amazon Prime Videoにて視聴。
ストーリー
スパイダーグウェンことグウェン・ステイシー。彼女はマイルズ・モラレスと出会う(前作「スパイダーマン:スパイダーバース」)その前に、ある出来事がきっかけでスパイダーウーマンとして幼馴染のピーター殺しの汚名を着せられてしまっていた。警官である父には打ち明けることもできず、マイルズたちとの一件後も悶々とした日々を過ごすグウェン。あるとき他の次元から現れたヴィランであるヴァルチャーを、同じく他の次元のスパイダーマンらと捕獲。だがその際現場にいた父親に自身がスパイダーウーマンであることを知られてしまい、父親との溝が埋まらないままグウェンはマルチバースを守るスパイダーマン組織「スパイダーソサエティ」と行動をともにする道を選ぶ。
一方マイルズ・モラレスの世界。ピーター・パーカーの跡を継いでスパイダーマンになったモラレスだが、グウェンに想いを馳せながらヒーロー活動を続けていた。空間にポータルを作り出すヴィラン、スポットを撃退しつつ両親との関係や進路に悩んでいると、なんとグウェンが現れる。スポットを捕獲しに来たグウェンは束の間マイルズとの再会を喜ぶが、その僅かな時間でスポットは自らの能力を強化するに成功し、自力でマルチバース移動を行えるようになってしまう。マイルズと別れひとりスポットを追うグウェン、しかし跡をつけていたマイルズも気づかれずに彼女を追うのだった……というのが序盤。
感想
前作同様面白かった。もちろんネタバレを避けていろいろ語りたいのだけど何を書いても楽しさを奪ってしまう気がするので、まだ未視聴で観る予定の方はすぐにでも「前作から」の視聴をおすすめする。ちなみに私は「スパイダーマン」の実写映画を何作か観たのとカプコンの対戦格闘ゲームくらいでしか馴染みがなく、知識も熱量もそれほど高くないと思うのだがそれくらいの人間が観ても本作はマジで傑作だと思った。
本作は3DCGで描かれたキャラクターの映像に印刷コミック本のドット風のエフェクトを加えるといった前作からの表現に加え、さらに各スパイダーマンたちの表現媒体の数もマシマシ。最初に出てくるヴィランのヴァルチャーは中世のスケッチで描かれたような姿で現れるし、今作のメインキャラクターの一人であるスパイダーパンクは文字や写真を切り抜いたイギリスのパンクカルチャー的アートスタイルの粗い印刷風に描かれる。本作には無数のスパイダーマンが登場するが、出典の表現までもが個々のキャラクターの個性になっているのは面白い。モブのように登場するキャラクターがすべてスパイダーマンというのは、知識がある人ほど楽しいのではないだろうか。また映像での驚きでもう一つあるのだが、高速なアクションやあまりに早いカットの切り替わりなどでマイルズのような精緻な3DCGで描かれたキャラクターたちが遠目で動く際に一瞬実写の人物のように見える瞬間があった。これは前作から見られたかもしれないが、なかなか味わうことのできない視覚体験だった。
あとはストーリーもやはり秀逸。個人的にフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビが関わっているならハズレなしだと思っているのだけど、2時間30分という長尺を感じさせない面白さ。本作は家族や大切な人との「繋がり」と、テーマがわかりやすい。グウェンやマイルズの物語はもちろん、そもそも前作の敵役であるキングピンの目的も家族を取り戻すことであったし、今作の重要登場で、スパイダーソサエティを結成したリーダー「スパイダーマン2099」がマルチバースを守る動機にも家族が関係している。特に冒頭でのグウェンの過去ストーリーや父親との関係は、それで一本映画のお話として成立しそうな密度。それだけでも凄いのだけど、本作は無数のスパイダーマンが次元を超えて集結するというある種メタ的なお祭り要素を持ちつつも、それらを内包する物語設定をしっかり仕込んでいる。ハチャメチャな世界観に見えて決して何でもありというわけでなく、ちゃんとした厳しいルールが存在するのだ。そのルールがマイルズを苦しめるし、マイルズはそのルールに抗おうと足掻いた結果、どんどん深みに嵌まっていく。こういう「ヒーローの存在意義がゆらぐヒーロー映画」はやっぱり面白い。本来複雑で深刻な物語がするする入ってくるのは、やはり語り口の巧さに尽きると感じた。
まとめ
というわけで、最高峰クオリティの3Dアニメーション映像に、優れた脚本の作品。テンポの良さといい物語の密度といい、正直どこに隙があるんだというくらい完成されていると思う。ただ本作は序盤から前作を知っている前提で話が進むし、正直内容を知ってるのと知らないので理解度も面白さが変わるので、ぜひ前作を予習してからご視聴を。
Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8K8NSCW/
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