ドラマ感想「フォールアウト(シーズン1)」

2024年4月にAmazon Prime Videoで配信されたオリジナル・ドラマシリーズ。ベセスダ・ソフトワークスの有名IP「Fallout」シリーズの世界観が元になった作品。製作総指揮はジョナサン・ノーラン。あのクリストファー・ノーランの実弟で、「ダークナイト」や「インターステラー」の脚本や、HBOドラマ「ウエストワールド」などで製作を努めた天才。主人公のヴォルト住人ルーシーをエラ・パーネル、B.O.S.従者マキシマスをアーロン・モーテン、グールの賞金稼ぎをウォルトン・ゴギンズが演じる。

ストーリー

2077年の最終戦争により、世界は核の炎に包まれた。それから219年後――ヴォルト・テック社の核シェルター「ヴォルト33」の居住者にして監督官ハンクの娘、ルーシー・マクレーンは隣接するヴォルト32の男性と結婚し子孫を設けるための住人トレードを申請し承諾される。披露宴を兼ねた交流会でヴォルト32からやってきた人々をヴォルト33の人々は歓迎するのだが、彼らは皆どこか不自然だった。そしてパーティーのあと、予想していなかった事件が起こる。
一方、地上にあるB.O.S.(ブラザーフッド・オブ・スティール)前哨基地。訓練生のマキシマスは、他の訓練生たちから目をつけられいじめの標的にされていた。気遣ってくれる友人もいたが、それ以上にマキシマスはB.O.S.に救われた恩と故郷を奪った者への復讐のために地道に訓練を受けていた。そんな折、候補生の中からB.O.S.ナイト(パワーアーマーをまとう戦闘員)の従者の補充が行われる。選ばれたのは友人。だがその友人が何者かの手で負傷し、マキシマスに疑いがかかってしまう。だが彼は司令官に身の潔白と忠誠心を訴え、結果代わりの従者に選定されるのだった。
場所は代わり、賞金稼ぎ風の男たちがある男の墓を掘り起こした。棺から出てきたのは、同じく賞金稼ぎ風の格好をした男。彼は賞金稼ぎの間では名のしれた凄腕であり、人間の寿命以上の長い時間を生き続けてきたグール(放射能で変異した人間)でもあった。掘り起こした男たちはデカい仕事があるとその男を誘うのだが、グールは非情にも男たちを殺して一人でその仕事をやることにする……というのが1話。

トレード申請の面接を行うルーシー。
このヴォルトでの振る舞い全体が、どこか胡散臭い宣伝広告的で大変よろしい。

感想

8話まで一挙配信されていたため2日で一気見してしまった。「フォールアウト」は、シリーズを通して緻密に構築された年表や組織、歴史があり、冷戦時代のアメリカを彷彿とさせるレトロフューチャーな文化も相まったポストアポカリプスな世界観が非常に魅力的なゲーム。本作はどれかのゲームタイトルの物語をなぞるというわけではなく、世界観から物語を構築したオリジナルストーリーになっている。
観ていて伝わってくるのはとにかく「わかっている」ということ。私はゲーム自体は「フォールアウト4」しか遊んだことがないものの、主要キャラクターたちの素性がどれも世界観的においしいところ取りだと思った。核シェルターの中で種を存続させてきたヴォルト生まれのルーシー、本作でカッコよさ随一のパワーアーマーを保有するB.O.S.に所属するマキシマス、そして放射能で変異したグールであり、最終戦争以前に何が起こったかを知る歴史の生き証人である元人間の賞金稼ぎ。それぞれのドラマも見事で、核シェルターという文字通り温室育ちのルーシーが倫理の崩壊したウェイストランド(アメリカ全域)を生き抜くうちに適応していく様や、B.O.S.という組織の中で立ち回るマキシマス。そしてグールの賞金稼ぎは現在のところ本作で最も舞台設定との繋がりが深い。彼がグールになる以前の姿で描かれるのは世界が崩壊する最終戦争直前の時代であり、彼の過去を通してなぜ世界がこんな事になったかの謎を追っていく。三人の立場も目的もバラバラだが、フォールアウト世界の文化や歴史を説明するのに最適といって良いチョイスだと思った。

B.O.S.出発式。画像では見切れている左のパワーアーマーの補佐を行うのが従者。

また、映像化されたことで感じたのは世界の描写がよりリアルでかなりえげつないということ。もともと派手に血や臓物が飛び散ったり、殺人に食人、巨大化したゴキブリなどのおぞましいクリーチャーに、放射能汚染された食べ物など、これでもかとポストアポカリプスな事象が盛り込まれている過酷な世界だが、ゲームではそれらがややブラックジョーク的に描かれそれこそが刺激的な魅力になっていた。ところがそれを実際にリアルな人間たちの演技でやられると、「こんな世界に誰がした?」という物語内人物たちの怒りや悲嘆がより伝わって来て、改めてとんでもない世界だなあと感じさせられるのだ。これだけでも見事だと思うのだけど、本筋のストーリーも登場人物たちの物語を追いながら最終的に前述の「こんな世界に誰がした」という核心にまで迫っていく。正直物語はやや都合のよい展開がちょこちょこ見受けられたが、明かされる残酷な事実はそんなことなど軽く吹っ飛ぶレベルでインパクトがある。

グールの賞金稼ぎ。彼の生前の仕事を考えると、
このマカロニウエスタン的な風貌もダーティーな振る舞いもよりいっそうカッコよく思える。

まとめ

というわけで、世界観が魅力なゲームの世界観を最大限魅力的に描いたドラマ作品。本当に制作陣はゲームとその世界に対する理解度が高く、端役の振る舞いひとつとっても実にゲームらしい解像度の高さで隙がない。またゲームをやり直したくなるほど素晴らしかった。おすすめ。

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