映画感想「ドリーム・シナリオ」
2023年に公開されたスリラー映画。とある中年男が大勢の他人の夢に現れ始めるという、ネット上の都市伝説「THIS MAN」を彷彿させる内容を扱った作品で、主演がニコラス・ケイジ、監督と脚本はクリストファー・ボルグリ。プロデューサーに「ミッドサマー」などのアリ・アスターが関わっている。Amazon Prime Videoにて視聴。
ストーリー
ある朝、進化生物学の教授ポール・マシューズは、次女ソフィーから自分が夢に出てきたことを聞かされる。体が空に浮かび上がり、パパに助けてと叫んだが何もしてくれなかったと話す娘に、「夢の中の自分は不甲斐ないな」とぼやくポール。家族仲は良好なものの、中年に差し掛かった彼は自らの置かれた状況に焦りを感じていた。
そんな折、ポールは元彼女とばったり出くわす。「私の夢にあなたが出てきた」と話す元彼女はライターをしており、あなたのことを記事にしていいかと聞いてくる。ポールが了承したところ、顔写真つきの記事を見た多くの人々が「私もこの人を見た!」と騒ぎ出す。一躍有名人となったポールだが、徐々に夢のポールが見る者を襲うようになり……というのが中盤までの流れ。

彼を知る人だけでなく、まったく知らない人の夢にも現れる。
感想
「THIS MAN」にニコラス・ケイジを当てはめるという設定のキャッチーさで、かなり気になっていた作品。何らかの夢を見る側というのは思いつくが、望まないうちに夢に出る側になってしまうというのは捻りがきいており、途中までは「どう落とすのか」という部分に期待しながら視聴したのだが、観終わった感想としてはかなり一癖も二癖もある作りで、話の展開と畳み方に関しては想像していたものとだいぶ違うものが出てきたなという印象。まあぶっちゃけ期待を裏切られたのだけどそれでいて「何かある」内容なのも確かで、面白くないと切り捨てるには勿体ない作品だと感じた。
まず思ったのが、主人公ポールがそんなに好感の持てる人物として描かれていないということ。根っからの悪人でないものの、一言でいうとみっともない大人。神経質で見栄っ張りで、相手によっては高圧的にもなる。妻から「あなたは時々人をイラつかせるところがある」と冗談っぽく言われる場面があるのだが、実際この言葉はかなり的を射ていると思う。
このポールに、彼自身にはどうにもできない夢騒動が降りかかるのだ。夢の大半は娘が見たのと同様ポールは何もせずただ出てくるだけのモブのような存在で、複雑ながらも自身が人々から注目される状況を受け入れるポール。それが徐々に「モブおじさんの夢」から「凶暴な悪夢の中年男」になっていくと、いかにそれが夢であろうとその矛先は現実の本人へ向けられる。出会う人出会う人からヘイトを向けられていく様子は流石に可哀想であるのだが、先述したような人柄であるのですんなり同情できず、どうにも引っ掛かりが残る。
この「共感できない人物に共感を強いられる」という状態は負荷があり、居心地が悪い。ただこれはけっこう意図的に作り出されているのではないかと思う。監督の他の作品を視聴していないので確信はないものの、ポールの不快な言動と理不尽なバッシングの強さが徐々に高まっていくというか、巧妙に調節されているように感じたのだ。

ニコケイ演じる小心者のポールが精一杯凶悪な顔をしていて多少のおかしみを含んでいる。
そしてもう一つ、この「他人の夢に自分が現れる」現象に関して。ポールはその怪現象によってどんどん現実の生活を侵食されていくが、それは怪現象そのものではなくそれを発端とした現実的なバッシング行為によって行われる。このポールという存在の「拡散」の仕方はインターネットを象徴しているようにも捉えられ、ポールが実在することを人々が知るのはネット記事だし、自分の知らない相手からいわれのない理不尽な扱いを受ける様子も行き過ぎた炎上行為に置き換えられる。こういった現実味がある展開も確かに恐怖といわれればそうなのだけど、応援できない人物を無理やりひどい目に合わせるやり方といい、いちいち「怖がらせ方」「不安にさせ方」がストレートでないというか、頭で噛み砕く力を求められる。
さらに怪現象が発展していく様子には明確な法則があり、その存在はうっすら感じ取れるレベルで見せ方が抑えられている。そうした安易にわかりやすさを与えないというのも併せて「曲者」といわざるを得ない。
そしてもう一つ、怪現象とは別軸で、というか実のところ物語の中心に終始据えられている要素がある。それがストーリー紹介で触れたポールの焦燥感だ。彼は二人の娘と愛妻に囲まれ、さらに大学で教授というポジションにもついている。傍目には家庭に仕事と恵まれているように見えるが、本人は今の状況に満足していない。これはいわゆる「ミドルクライシス」であると思われる。ポールはずっと本を出版したがっているが、それが果たせていない。彼が何を望んでいるかは知人らからの扱いを見れば何となく察せられるのだけど、終盤に訪れる展開はかなりびっくりするし、その後訪れる結末は物語におけるポールの苦悩に対する答えになっており、非常に切ない。
まとめ
というわけで、「THIS MAN」となった主人公が他人の夢で勝手に暴れ出すというキャッチーさと裏腹に、難解かつ大人な内容の寓話的スリラー。「ニコケイ版THIS MAN」と思ってみるととんでもなくコレジャナイものが出てくるのだけど、作品としては見ごたえがあり、決して嫌いになれない。ちなみに最初「THIS MAN」を都市伝説と紹介したが、実のところそれ自体が創作であり、そんな事象が実際に起こった事実はなかったりする。
Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0DSSY21T4
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