ゲーム感想「Ghost of Tsushima」
2020年7月発売のPlay Station4用ソフト。サッカーパンチプロダクション開発。
日本の対馬を舞台にしたオープンワールドゲーム。13世紀に起こった元寇(文永の役)、いわゆる蒙古襲来をベースに、地頭の甥で侍の境井仁として侵略された対馬をモンゴル軍から解放していく戦いを描く。
日本が舞台のオープンワールドということで発表当時から注目されていた作品。しかもサッカーパンチは海外スタジオ(アメリカ)である。
日本人なら誰もが思うであろう一番の関心どころは、外国人が作る日本というと大半はどこか間違っている部分がある点だろう。
これは、描かれる日本が昔だろうと現代だろうと同じで、特に映画作品などしっかりしたスタジオが大真面目に作ったものでも結構ずっこける出来だったりする。もちろん全てがとは言わないが、日本の表現が「間違われる」原因について思うに、海外の人が日本を舞台にするとき、日本独特の文化として伝わっているイメージを誇張させたり、意図的に「捻じ曲げた」日本要素が好きであるがゆえに使っている可能性が考えられる。また、外国にある日本人街を参考にしているとか、もっとひどいと同じアジアの中国や韓国と混同しているのかもしれない。
別にこういう間違った日本だから駄目、というつもりはない。マカロニ・ウエスタンだって、本場アメリカ西部劇を正確に再現しなかった(意図的に変えた)からこそ別の魅力がある。まあ、外から見た国のイメージと現実の齟齬はどこでもあることなのかもしれない。映画ではないけど、ナポリタンやカレーだってイタリアやインドの人がいうには別モノっていうし。
というわけで「日本人が見て違和感を覚えない」程度の感覚で語るのだけど、その点でいうと「ゴースト・オブ・ツシマ」は自分が遊んだ限り実によくできていると感じた。自分が鎌倉時代の文化風習についてそれほど明るくはないというのもあるが、ゲームを遊びながら「日本じゃない」という箇所がほとんどなかった。
まず、グラフィックである。公式ですでに発表されているが、当時の対馬を完全に再現したわけではなく、資料などを元に作り上げた「架空の」対馬ということである。確かにフィールドを歩いていても、地形など紅葉や一面のススキ、あるいは冬の寒村など、とにかくきれいというかフォトジェニックな景観が目白押しだ。旅行パンフレットのきれいな景観写真や、時代劇映画などで画映えする風景を切り取って移植したような感じとでもいおうか。
ただ、それらがギュウギュウに詰め込まれているとしても、画面内に収まる景観一つ一つは過剰に「日本でござい」なものを詰め込まず、引き算のさじ加減がうまい印象を受けた。全体としてウソ(作り物)だなとわかっても、ちゃんと日本的な情緒を感じさせるように配慮されている。
また、グラフィックだけではなくストーリーや設定なども日本観を感じさせるものに仕上がっている。
主人公の境井仁は両親を幼い頃になくし、地頭であり伯父である志村から日々「誉れ」を忘れずに生きろと教わりながら育った。誉れとは、卑怯な手や外道の技は使わず、死を恐れずあくまで正々堂々と戦うこと。
しかし、その教えは蒙古という異文化の敵にはまったく効かなかった。物語冒頭、蒙古が上陸した小茂田浜の戦いにおいて、開戦前に単騎で敵陣に向かった武将は、名乗りの最中に油をかけられたあげく火を放たれ殺されてしまい、小茂田浜の戦いは武士の惨敗に終わる。
この小茂田浜の敗北は、異文化の敵による武士の敗北であり、伯父から言いつけられ守ってきた「誉れ」という生き方の敗北でもあるわけだ。志村は捕虜として囚われ、生き残った侍は境井仁のみ。僅かな仲間とともに島を掌握した蒙古と戦うことになるわけだが、圧倒的多数の蒙古に対して正々堂々の「誉れ」ある戦い方では限界を感じる場面が幾度となく訪れ、徐々に「誉れ」なき戦い方(闇討ち、奇襲など)に手を染めていくことになる。対馬でただ一人の武士として、「誉れ」を貫くべきか捨てるべきかという葛藤がストーリーの主軸となっているのだ。
一応言及しておくと、元寇があった鎌倉時代の武士についてネットを漁ると「野蛮」「冷酷」「無慈悲」「戦闘狂」などひどいいわれようで、その所業については今日の侍のイメージや武士道とはかけ離れたエピソードがごろごろ出てくる。そもそも「武士道」自体が江戸時代以降に確立されたものだ(だから「武士道」ではなく「誉れ」という訳になっているのかもしれない)。
制作者は「武士/侍=武士道」という現代のイメージを優先したのだろう。劇中において「武士かくあるべき」という概念は百姓から武士まで浸透しており、闇討ちなど行えば百姓にドン引きされたりする。考証に忠実ではないといえばそうだが、サムライフィクションだと思えば気にならないレベルの嘘、創作である。
というか、この「Ghost of Tsushima」はそうしたウソの付き方、イメージと事実の混ぜ方、割り切り方がうまい。理想と現実というわかりやすいテーマを、時代考証は違えど「武士の誉れ」に当てはめてしっかり描いている。そこに「コレジャナイ!」と拒否せずノれたのは、我々が抱くイメージを壊していないからだろう。
制作にあたり当然アドバイザーなどいるだろうが、海外スタジオが精神性まで含めた「侍の世界」をグラフィック、ストーリーともに大真面目にやって、日本人が遊んで違和感なく遊べるということがどれだけ難しいことか。これはすごいことだと思う。
ゲームシステムは、オープンワールドゲームとしてはオーソドックスである。三人称視点で、物語を進めながら制圧された村や拠点を蒙古から解放していく。シチュエーションによって縛られる場合もあるが、基本的には侍らしく正々堂々勝負を挑むことも、「誉れ」なき暗殺の技(暗器や毒など)を使ったステルスプレイで敵を殲滅することも可能。正面きっての戦いは、基本的に一対複数人という構図になる。戦闘はもちろん剣戟がメインとなる。攻撃、防御、受け流し、回避などがあり、普通難易度はそこまでシビアでないものの、ボタン連打で勝ち続けられるほど簡単でもなく、相手の動きを見て押すボタンやそのタイミングを図る必要がある。うまくやると時代劇の殺陣のごとく流れるように敵を倒すことができる。
また、アップデートで追加された難易度「万死」は、敵の攻撃頻度と攻撃力が上昇するほか、受け流しや回避の入力タイミングがシビアになるなど難易度が跳ね上がる。ヒリヒリした歯ごたえある戦闘が楽しめるので、腕に覚えのある方は挑んでみるといいだろう。
剣術は剣の型(構え)が数種あり、それぞれ得意とする兵種(剣、槍、盾など)があるので、相手に合わせて切り替えて進むと効率よく戦える。アクションや構え方が違うので、自分の好きな型を使い続けることもできる。自分は「風の型」という構えで使える「蹴り」で相手をふっ飛ばし、倒れたところを追い打ちで倒すという戦法を好んで使っていた。
ゲーム中のサブイベントなどにも、「狐を追いかけて稲荷の社に手を合わせる」(この後狐をモフれる)、「険しい場所にある神社へお参りにいく」(ちゃんと二礼二拍手一礼する)、「和歌を詠む」「温泉に入る」といった、他のゲームでは見られないものが多い。また、通常アクションに「尺八を吹く」「お辞儀をする」といったものも。あまり使わなかったが、尺八を吹くことで天候を変えられるとのこと。
そして最大の特徴として、「風」を使ったナビゲートシステムが有る。これはプレイヤーが向かう目的地に対して風が吹くという仕組みで、画面上に風の流れが見えるほか、草木なども風の影響を受けてはためいたり、葉っぱが舞ったりする。ゲーム画面に矢印など記号的なアイコンを出すことなく目的地の方向をプレイヤーに知らせることができる、正直発明レベルですごいアイデアだと思う。
「時代劇」「風が視える」といえば黒澤明の映画だが、どうやら開発者はそうとう黒澤をリスペクトしているらしく、ゲームモードの設定で「黒澤モード」なるものまで用意している。黒澤モードにするとUI含めゲーム画面全体がモノクロになり、まるで昔の映画のような画面でゲームを遊ぶことができる。しかも、色だけでなく昔のフィルム調の傷や、音声までくぐもって聴こえるようになる拘りっぷり。ただ黒澤モードはゲームの視認性面までは考慮されていない(たまに○○色の花を探せ、とか言われる)ので、遊ぶ分には多少見づらさはあるものの、たまに変えてやってみるとイベントシーンなど新鮮に見える。おまけにしては豪勢すぎるほどである。ちなみにゲーム中、画面オプションでいつでも変えられる。他にも、言語設定などでは「日本語音声」で「英語字幕」など選択できる。これは海外の時代劇映画ファンのために用意されたものだろう。こういうツボを押さえているあたり、本当に好きなんだなあと感じさせる。この手の大作ゲームで当たり前になったフォトモードも機能が充実しており、一部のイベントシーンを除きいつでも写真を撮ることができる。
というわけで、ゲームシステムや「日本観」の作り込みは相当なもので、他のオープンワールドゲームと明確に差別化されている。
ゲーム全体を通して「日本観」「武士の世界」を堪能できる、海外産の時代劇であり、サムライフィクション。本当、とんでもないものがやってきたなあ。サッカーパンチおそるべしである。おすすめです。
画像:https://www.igdb.com/games/ghost-of-tsushima/presskit
公式サイト
https://www.playstation.com/ja-jp/games/ghost-of-tsushima-ps4/
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