ゲーム感想「フェノトピア:アウェイクニング」
2020年11月にNintendo Switchで配信された横スクロールアクションRPG。
Cape Cosmic開発で、Steam版は2021年1月配信。もともとは2014年にフラッシュゲームとして公開されたものを、6年の歳月をかけ再度作り直しクオリティアップしたものとのこと。副題の「アウェイクニング(目覚め)」から予想できるように、壮大な物語の一章という位置づけの作品である。
まず目を引かれたのがドット絵によるアニメーション。キャラクターのドット絵自体は細かくはないが、特に主人公のアニメーション自体は枚数が多めで動きがとても滑らか。寝起きの大きくあくびをするところや、キャラクターとの会話シーンで腕を組み首を傾げるところ、遠くの地で同郷の友人と再会して抱き合うところなど、感情表現が豊かで拘りが感じられる。自分も稚拙ながらドット打ちをやっているのだが、このレベルのものは到底作れる気がしない。
また主人公だけに力が入っているのではなく、NPCの数も膨大。メインキャラクターの数も相当なものだが、村人NPCのようないわゆるモブの数もかなり多く、街などNPCが大量に登場する場面でも同じ人だらけだとは全然感じない。後述するがこのゲームは設定のみならずかなり世界が広大で、大きい街は本当に大きい。それを、人が少ないと感じさせない程度にはNPCが配置されているので、ここに関してはその物量に驚嘆するほかない。
街の話になったが、キャラクターだけでなく背景も素晴らしい。こちらは模様など細かく描き込まれ、多重スクロールなどを駆使して遠近感を出したり、小さなドットがふわふわ浮いて空気感を演出するようなエフェクトもついているなど、表現も豊か。キャラクタードットに輪郭線がないこともあって全体的な絵としてよく馴染んでおり、グラフィックとして完成されていると感じた。水音や家畜の鳴き声など環境音などにも余念がなく、どこかレトロだが厚みのあるBGMもクオリティが高い。個人的に通常ボスBGMがお気に入り。
「フェノトピア」は横スクロールアクションゲームであり、さらに数々の往年の名作ゲームのオマージュによって構成されている。全体的なシステムとしては横スクロールの街やダンジョンがメインなのだが、その上の階層にフィールドマップが存在する。一つ一つのダンジョンも横スクロールアクションとして内容の詰まった街やダンジョンを踏破しても、フィールドマップではごく一部でしかない。その世界の広さに圧倒されるばかりである。
フィールドマップには敵のシンボルが徘徊しており、接触すると横スクロールのバトル専用ステージに移行するという、かつて1987年にディスクシステムで販売された「リンクの冒険」と同様の仕様になっている。
ストーリーの序盤だけさらっと説明すると、主人公は、パンセロ村の孤児院で暮らす16才の少女ゲイル。ゲイルはある日の夕飯前、いつものように村から少し離れた森へ遊びにいっている孤児院の子供たちを迎えに行く。その中の一部の子供たちが、森の奥にある寺院に空から隕石が落ちるのを見たといって聞かないため、代わりに寺院の中へ確かめに行くことに。ゲイルが見つけたのは、壊れたゴーレムというロボットのようなものの頭だった。それを回収して少年達のもとに戻ったタイミングで、遠くに見えるパンセロ村の上空に巨大なUFOが現れ、なにか光のようなものを浴びせて去っていく。
子どもたちが慌てて村に戻ると、村人たちは全員いなくなってしまっていた。残されたゲイルと子供たちは、「ゴーレムが落ちたのとUFOが飛来したのは偶然ではない」と考え、ゴーレムを修理できる科学者を探すことになる。しかし全員で村を離れるわけにもいかない。こうしてゲイルが一人で故郷を離れ冒険へと旅立つ……というのが冒頭の流れである。
「村人全員がUFOにさらわれた村に子供だけが残され、留守を預かりながら団結する」という、心細さと逞しさが同居するシチュエーションに自分は心を掴まれてしまったのだが(ここでかかるBGMがまたいい)、ゲームの世界観としても「MOTHER」シリーズや「ゼルダの伝説」シリーズなどの任天堂のゲームを彷彿とさせる。深刻な状況ながら全体的にはコミカルテイストであたたかみがあり、いかにもレトロなロボットが出てきたり、音楽を奏でていろいろなことを起こすギミックなど、うまく溶け込ませている印象で、やはり熱量あっての賜物だろう。明らかな匂わせとしては主人公ゲイルの武器がバットだったり、武器の段階が4種類なところから特に初代「MOTHER」の影響がうかがえる。
グラフィック、シナリオとかなり間口の広そうなデザインになっていながら、「フェノトピア」にはまだ特徴がある。それがゲームデザインであり、はっきりいって玄人好みというか、「クリアしてみやがれ」という開発からの挑戦状としか思えない難易度なのだ。
まず、アクション部分に関してプレイヤーに対する豊富な「枷」が存在する。筆頭として挙げるのがスタミナゲージの存在だ。スタミナは時間経過で回復するが、攻撃、ダッシュ、ジャンプなどあらゆる行動で使用する。特にボスなどは強力な攻撃の後に隙ができ、そこに反撃のチャンスがあるという、「攻撃」と「防御(回避)」というフェーズをスピーディーに繰り返していく横スクロールアクション王道の流れだが、特に序盤はせっかくできたチャンスのときにスタミナ切れ、といったことが頻繁に起こる。スタミナゲージは各地にあるスタミナジェムの入手で伸ばすことができるが、余裕ができても管理は必要である。
他にも、連続ダメージに対する威力減衰だったり、被弾時の一時的な無敵がかなり短時間だったり、回復(食べ物を食べる)にかなり時間がかかったりなど、シビアな仕様が目白押し。一応、これらのいくつかに関してはオプションでいつでも緩和できるようになっており、通常攻撃のみスタミナ消費しないとか、アイテム選択画面から回復可能にするといった設定が可能。しかしレベルアップの概念がないため、そうした補助機能をオンにしたところでやはりある程度はプレイヤースキルが求められる。
また、アクションだけでなく謎解きにおいても本作は気合が入っている。手に入る新たな能力一つ一つを使ったギミックもバリエーションが豊かだし、それにステージ専用ギミックやパズルなども多種多様。中には丁寧にヒントが用意されたものもあるが、閃きがなければ何時間も右往左往する羽目に遭うようなものや、謎の規模がその場だけでは解決しないものなど、相当な難題もあってかなりのやり応えとなっている。
なぜこれほどの難しさなのかと考えたのだが、グラフィックやシナリオと同様に本作が「往年の名作ゲームの体験をそのまま再現したい」というコンセプトだからではないかと思う。昔に比べればゲームはだいぶ簡単になったという実感は自分も持っているが、それは単に簡単になったのではなく、調整に調整を重ねて適切な面白さへと進化していったものともいえる。もちろん昔が異常だったともいうつもりはないが、価格に合わせて一つのゲームにかける時間を長くしなければならない時代と、次々と新たな娯楽が生み出されていく時代では、受け入れられる方法を変化させるのは当然だろう。
そんな中で本作の難易度は明らかに昨今の傾向からは外れている。しかし、倒せない敵の動きを覚えて撃破したときや、何時間も考え込んだ謎を問いたときの達成感は格別であるし、ゲーム自体のボリュームやクオリティは、時間をかけて挑むに十分値する。どうにかラストまでたどり着いたときに攻略情報を見たところ、知らない特殊武器やイベントの情報だらけだったときは、どんだけやりこみ要素があるんだ(そして自分はスルーしてたんだ)と驚いたほどである。
というわけで、遊ぶには覚悟がいる難しさだが、とてつもない物量といい作り込まれた細部といい、この手のジャンルとしては大作といって差し支えないゲーム。アクションや謎解きに対して腕に覚えのあるプレイヤーや、やりごたえを求めるプレイヤーは是非。
画像:https://phoenotopia.com/
Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000035217.html
PC(Steam)
https://store.steampowered.com/app/1436590/Phoenotopia_Awakening/
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