映画感想「デッド・ドント・ダイ」
2019年のゾンビ・コメディ映画。ジム・ジャームッシュ監督作品。キャストはビル・マーレイやアダム・ドライバー、ティルダ・ウィンストン、さらに歌手のトム・ウェイツ、イギー・ポップなど、非常に豪華な面々が名を連ねる。恥ずかしながらジャームッシュ監督のことを自分はまったく存じ上げなかったのだが(「パターソン」など、タイトルは聞いたことはある)、独特の作風で知られるベテランだそうである。
「実によき町」が標語の、田舎町センターヴィル。クリフ・ロバートソン警察署長(ビル・マーレイ)と巡査のロニー(アダム・ドライバー)は、家を持たず森に棲む世捨て人ボブのもとを訪れる。ある農場主の鶏が盗まれ、「浮浪者のボブがやったに違いない」という訴えを聞いたからだ。木陰に隠れるボブは警官に向かって「帰れ!」と怒鳴り、猟銃で威嚇射撃。ロニーは銃を構えるがクリフは動じずにそれを制し「キツネがやったと信じるよ」と告げて去っていく。そこにOPクレジットと、映画と同名のテーマソング「The Dead Don’t Die」が差し込まれる。カントリー風で、作品のロケーションと非常に合っている曲である。
巡回中のパトカーの中で、二人は町を覆う微妙な不穏さを感じ取る。署にいるもうひとりの警官ミンディも外が変だと無線で言ってくる。ロニーが携帯を使おうとするが、充電したはずなのにバッテリー切れ。「ラジオをつけましょう」と車のラジオをつけると、聞こえてくるのはまたも「The Dead Don’t Die」。「なんか聞いたことあるな。なぜ聞き覚えが?」とクリフが呟くと、隣にいたロニーは「テーマ曲だから」と答えるのだった。
メタ発言が飛び出した辺りで大抵の人は察するだろうが、本作はド直球なゾンビ映画では一切ない。少なくとも、ホラーをまっすぐホラーとして描いているとは思えない。「The Dead Don’t Die」がかかる間、ロニーは曲に合わせ頭を左右に振っているし、ロードムービー風引き画の後にパトカーが通り過ぎる場所は町の看板に始まり、「葬儀場」「少年拘置所」「モーテル」「GS&雑貨屋」「ダイナー」と、シーンの舞台となる場所をこれ見よがしにテロップつきで紹介していく。この時点で隠す気もないわざとらしさに笑ってしまった。
町の人々も、冒頭の世捨て人ボブを筆頭に、「Keep America White Again」とどこかで見たスローガンの帽子をかぶった農場主、顔つきや髪型のせいか会う人会う人に「フロド」と呼ばれる映画オタクの雑貨店主、日本刀でゾンビを切り倒す浮世離れした葬儀場の女主人など個性的。映画の序盤はそれらの人物を群像劇風に紹介していく。ジャンルパロディ、あるいは変化球的ゾンビ映画といえるが、ここまでビッグ・ネーム揃いなのもなかなかないように思う。
ストーリーについては、次第に町に異変が起こっていき、ゾンビによる犠牲者も現れ、やがて本格的にゾンビが大量発生……というあってないようなもので、そこにオフビートなギャグ、メタネタ、パロディ、天丼(同じネタを何度も繰り返す)、アドリブ(?)などがツッコミ不在なまま延々と続いていく(冒頭の「The Dead Don’t Die」も最後まで擦られ続ける)。
特にメイン二人のやり取りが非常にシュールなのだが、役者のパワーなのか冗長にも関わらずなぜか見ていられる。そもそもこの手の映画にキャスティングされること自体がギャグのようにも感じられ、さながら「もしも名俳優やスターたちがゾンビ映画に出演したら?」という壮大なコントのようにも思える。しかし、「僕たち、ふざけてま~すw」というような安っぽさ全開というわけでもなく、どこかに感じられる真面目さがまた独特の空気感を作り出している気がする。
ゾンビたちは怖さというより奇抜さに振り切っており、ギャグのようだが本気さが伝わってくるという不思議な仕上がり。場面によっては血みどろのエグいシーンもあるが、それすらも笑いにしている。彼らの習性がまたクスリとさせられるのだが、そこが監督の伝えたいメッセージでもあるようだ。映画としての終わり方は、はっきりいって投げっぱなしとしかいえないのだが、元々物語の展開で楽しませる構造ではないのでオチについて個人的にはどうでもよかった。
というわけで、「真面目に不真面目」を貫いたシュールかつ変則的な作品。間違ってもしっかりしたゾンビ映画やそれらしい物語を期待してはいけない。こういうのは少しでも波長が合わないとまったく受け入れられないタイプの作品だと思うのだが、なかなか楽しめた。個人的にアダム・ドライバーの何ともいえない顔が好きというのもあるかもしれない。これが監督の作風そのものなのか自分は判断できないが、変則的ゾンビ映画、独特のシュールな空気に興味がある方はご覧になってはいかがだろうか。
画像:© 2019 Image Eleven Productions, Inc.
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